アブストラクト
題目
スピングラスのエージング現象
講演者
福島 孝治 氏(東京大学大学院総合文化研究科)
日時
2004年 2月 20日(金) 午後 4時 30分より
場所
日大理工・船橋校舎・1号館3階131B室
要旨
スピングラスは強磁性的な相互作用と反強磁性的な相互作用がランダムに混在 している磁性体である.この競合する相互作用のために,全ての相互作用を満 足させるようなスピン配位は存在せずに,その秩序状態は幾つかの特徴的な性 質を持っている.その一つが,表題のエージング現象と呼ばれる低温のスピン グラス相の平衡状態への非常に遅い緩和現象である.この非平衡緩和現象には ただ遅いというだけではなく,一見すると奇妙に思える性質を持っている.一 つは「記憶効果」に関することである.多くの実験は,スピングラス相の中で の温度変化や磁場印加の操作履歴を特徴的に記憶していることを示唆している. 一方で,異なる温度の緩和現象がお互いに全く影響を及ぼしていないようにも 見える実験結果(rejuvenation効果)も同時に観測されている.これらの実験結 果の解釈は幾つか報告されているものの,いまだ完全な理解には至っていない.
講演では,まずスピングラスの性質を概観した後で,上記のエージング現象の 実験結果を紹介し,それに対する我々の解釈を解説したい.そこでは,実験的 に観測される物理量はその時刻までに形成されたスピングラスの秩序クラスター の長さスケールで特徴づけられると考える.そして,スピングラス相での操作 履歴は全てその秩序の長さスケールの成長過程に取り込むとするわけである. つまり,我々のアプローチは,非平衡緩和現象を「時間スケールから長さスケー ルへの翻訳」と「長さスケールと物理量の関係」の二段階のステップで説明し ようとする.この考え方でスピングラスのエージング現象がどこまで説明でき るのかを議論したい.
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