研究テーマ


「ペーストへの記憶の刷り込み」と「乾燥破壊時の亀裂パターンの制御」

  粉と水を混ぜて混合液を作り容器に入れ乾燥させると、 「干上がった沼地」のような等方的なセル状亀裂が発生する。 我々は粉と水との混合比を変化させて乾燥破壊の実験をおこなったところ、 粉に対して水の混合比率が低く混合液がペースト状の場合には、 混合液を入れた容器を初期段階で揺すっておくと、 その後乾燥して発生する亀裂パターンが 「初期に揺すった方向」に垂直な縞模様になることを実験的に見出した(左図)。 この実験結果は、 ペーストに対して降伏応力以上の外力を加えるとペーストが揺れること、 この揺れの方向がペーストに記憶されていること、 そして「揺れの記憶」に従ってその後の乾燥破壊時に現れる亀裂の進行方向が 決められていることを示している。
  さらに粉の種類を変えて同様な実験をしたところ、 ある特定のペーストについては粉の比率を下げていくと 「揺れの記憶」だけではなく 「流れの記憶」も可能だということがわかった。 ここで「流れの記憶」とは、容器を揺すった際に生じたペーストの流れに対し その後発生する縞状亀裂パターンの方向が平行になる(右図)というもので、 亀裂の方向が揺れの方向に対し垂直だった「揺れの記憶」とは 明らかに違う記憶状態である。 現在、本研究室では「揺れの記憶」から「流れの記憶」への転移を 引き起こすメカニズムについて 精力的に研究中である。
  これらの実験結果は、 サイエンスとしてソフトマターのレオロジーの面白さを示すのみではなく、 工学的な応用面でも非常に意味がある。 本来破壊制御とは破壊をおこさないようにする制御のことであるが、 この実験は「仮に破壊は避けられない場合においても、 その際どのように破壊されるか事前に制御できれば、 常に最悪の状況は回避できる」という 新たな破壊制御の考えを実現したものであり、 特に最近「流れの記憶」を用いることにより 自在に「流線」形の亀裂を作成できるようになったので、 今後広い応用が期待される。
左図:揺れの記憶                   右図:流れの記憶
参考文献  


パイプ中を流れる粉粒体による 1/f ゆらぎの形成

  粉粒体(砂)は固体とも液体とも違った複雑な挙動を示す。 例えば、鉛直に立てたガラス菅を液体で充たし、 上部に取り付けたホッパー(ロート)から粉粒体(金属球)を流すと、 状況に応じて粉粒体はガラス菅中を一様には流れず 粉粒体の流れは間欠的となり、 混雑したハイウェーでの交通渋滞を連想させる。 我々は、ガラス管中を占める粉粒体の数密度を 連続的に変化させる実験を行うことにより、 自由流から混雑流への非渋滞・渋滞転移を得、 低密度では粉粒体は比較的自由に流れるが、 高密度では 流れが渋滞することが分かった。 また、ガラス菅を流れる粉粒体の密度揺らぎに対して ガラス菅を挟むようにしてレーザーと光センサーを取り付け、 透過光の強度の時間変化のフーリエ解析をおこなったところ、 この非渋滞・渋滞転移点近傍のみで 粉粒体の流れの密度揺らぎが 1/f ゆらぎに従うことが得られた。
参考文献  


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